2024
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桑原:今回のテーマにふさわしい方として、株式会社QunaSysのCOOである松岡さん、京都フュージョニアリング株式会社のCOOである世古さんにお越しいただきました。お二人ともディープテックスタートアップにとって非常に重要かつ難度の高い事業開発というポジションでご活躍なさっていますし、本日のテーマであるオープンイノベーションという観点では、大企業との協業に向けた大きな戦略を描くところから、実際に協業シナジーを具体化・実行するところまで含めてご担当されていらっしゃいますので、さまざまなご経験、ご苦労についてお話いただけるものと期待しております。
それでは早速ですが、お二人から簡単に自己紹介と会社のご紹介をお願いします。まずは、京都フュージョニアリングの世古さんからお願いします。
世古:京都フュージョニアリングの世古と申します。取締役COOを務めております。私は大手総合商社で10年ほど事業開発やスタートアップへの投資などを経験した後に、ベンチャーキャピタル(以下VC)のCoral Capitalでディープテックスタートアップへの投資をしていた経験があります。その中で、ディープテックの面白さに気づき、こうした技術が日本の将来を支えていくと感じてスタートアップ側に飛び込み、いまに至ります。
我々が取り組んでいるのは核融合という領域です。50年後、500年後、あるいは1,000年後、1万年後に、人類が生き残っていくために必要なエネルギー源は何でしょうか。私たちがたどり着いた答えは核融合エネルギーでした。
核融合の特徴は、温室効果ガスを発生しないこと、海水から燃料を無尽蔵に取り出せること、原理的に危険性がほぼないこと、高レベル放射性廃棄物が発生しないということにあります。地上の太陽と言われていますし、人類の知の結晶でもありますが、とても難しい技術でもあります。国も核融合の支援に向けた動きを本格化させています。
日本だけでなく、米国も核融合の開発プログラムを発表しております。米国には、有名なCOTS(Commercial Orbital Transportation Services)プログラムという宇宙産業での成功事例があります。公的な存在であるNASAとスタートアップのスペースXの組み合わせによって、宇宙開発を一気に促進する成果に繋がりました。NASAとスペースXの関係は、大企業とスタートアップの文脈に近いのですが、それを核融合分野にも当てはめ、いくつかの企業をピックアップした後に、最初は50億円程度、その後100億もしくは1,000億円という資金を拠出していくマイルストーンプログラムが動き始めています。
英国も同じような形で1,000億円以上の資金を用意して、核融合の産業化を進めている状況でございます。
世古:原子力は、ウランやプルトニウムなどの重い原子が分裂するときに出る核分裂のエネルギーを利用します。核分裂は一度反応が起こってしまうとそれが連鎖的に起こるので、福島第一原発事故のようにメルトダウンが起こってしまう可能性があります。
一方で核融合は、軽い元素である水素(重水素や三重水素)を衝突させることで生まれるエネルギーを利用するものです。元素同士をぶつけることがとても難しいことから、事故が起こることはないと言われています。
南フランスで約3兆円をかけて行われているITER(イーター)プログラムは、世界7か国が参加するプロジェクトです。巨大なシステムであり、かつ国際協力の枠組みのため、長い時間をかけて慎重に進められています。それと並行して、近年では民間の核融合スタートアップが40〜50社出てきており、よりリスクを取ったチャレンジを行っています。
中でも米国、英国、ドイツが先行していて、日本では、京都フュージョニアリングをはじめ、レーザーを利用したEX‐Fusion、ヘリカル型のHelical Fusionの3社が核融合に取り組んでいます。また、最近では、ノーベル賞を取られた中村修二先生が新しくBlue LaserFusionを米国で立ち上げられています。このように核融合の世界が盛り上がっていまして、過去5年間で約6,000億円がこの領域に投資されています。
我々も、今年の5月に総額105億円の資金調達を発表しました。JIC VGIをリードインベスターとして、INPEX、三井住友銀行、商船三井、関西電力、JAFCO、DBJキャピタル、日揮、三菱商事、三井物産、三菱UFJ銀行など、そうそうたる日本の大企業・投資家の皆さまも含めてサポートいただいているところです。会社のメンバーとしては、小西哲之がCEOを務めて、私がCOO、坂本慶司がCTOとして経営に関わっています。小西と坂本はアカデミアや研究機関で技術開発をずっと進めてきており、この二人の技術を中心にビジネスを展開するのが我々の会社の強みです。
世古:多くのスタートアップや世界的な公的機関は、プラズマ反応をどう起こすかに取り組んでいます。一方でこの核融合をエネルギーとして取り出す方法や、燃料のサイクル方法など、プラント全体を考えていく必要があります。この核融合全体ですとおそらく1機あたり5,000億円から6,000億円のプラントになると思います。我々は、そのうちの2割、3割くらいを担う重要なキーコンポーネントを開発しています。これはジャイロトロンと呼ばれる装置ですが、1本あたり数億円の後半台です。この装置は、いろいろな日本のサプライチェーンの方々にお世話になって作っている装置です。キヤノン、京セラ、JASTECをはじめ、30社を超える方々の技術の結集として装置が成り立っていて、我々はすでに海外の顧客4社から数十億円の受注を獲得しています。
このように日本のサプライチェーンの皆さまのお世話になりながら、日本の技術を世界に届けるビジネスを展開しています。他にも、京都の久御山で建設を進めている施設では、世界で初めて核融合反応を模した形で、そこから熱を取り出して発電をしたり、水素を製造したり、カーボンクレジットをそのまま作る取り組みを進めています。これは2025年末には形になる予定です。
加えて、カナダのチョークリバーにあるカナダ国立の原子力研究所と提携を結び、そこで少し難しい元素の取り扱いを行う計画です。
核融合は、現在すでに5,000億円の市場があります。近い将来、核融合が商業化(実装)されると90兆円〜150兆円ともいわれる大きな市場となります。我々がファーストメンバーとなって飛び込んで市場を切り開き、海外に打って出ることで日本のサプライチェーン全体を活性化できる、もしくは自動車産業に続く新しい産業を作れるのではないかと思い、取り組んでいるところです。
桑原:ありがとうございました。非常にわくわくする話でした。
続きまして松岡さん、自己紹介と会社のご紹介をお願いします。

松岡:株式会社QunaSysの松岡と申します。私はQunaSysのCOOとして主に事業開発を担当しております。もともとは材料化学の分野でPh.D.を取り、その後コンサルティングファームで10年くらい、イノベーション戦略やR&D戦略に取り組みました。ちょうど量子コンピュータというキーワードが聞かれるようになったタイミングでした。個人的にも興味があったことから、QunaSysが、株主であるANRIのインキュベーション施設で、まだ1人か2人で量子コンピュータの研究をしていたときに訪問しました。そのときの打ち合わせテーブルが卓球台で、面白そうだと思いジョインすることになりました。それから4年ほどたちましたが、苦戦しながらも日々楽しくやっております。
QunaSysは、2018年に東大在学中のCEOが設立した会社ですが、技術顧問になってくださった先生はほとんど大阪大学の先生方なので、何々大学発という言い方はしていません。QunaSysには50人のメンバーがいて、半分がPh.D.で、8割ぐらいが技術者という研究開発型スタートアップです。
コーポレートミッションは、「Maximize the Power of Quantum Computing」を掲げています。
量子コンピュータの開発といっても、QunaSysは量子コンピュータそのものを作るわけではありません。いまある量子コンピュータの力を最大限活用できるアルゴリズムやソフトウェアを作ることをミッションとしています。具体的には、量子コンピュータ上で動くソフトウェア、その中でもアプリケーション化が早いといわれている化学分野のアプリケーションに注目して、ソフトウェアやアルゴリズムを開発しています。
とはいえ、将来的にはHHLアルゴリズムを使い線形方程式を解く、つまり流体シミュレーションや電磁波シミュレーションといったCAEの領域での用途が大きくなると思いますので、長期的にはそれを見据えながらも、短期目標として量子化学計算といわれる電子の精密な計算を行うアプリケーションに着目し、そのソリューションの開発を進めているところです。
松岡:その一方で、私たちは量子コンピュータに興味がある方に、量子コンピュータがこういう原理で動いていてこういうことができるということを学んでもらう場を提供しています。それがQPARC(Quantum Practical Application Research Community)という、弊社独自のコミュニティです。50社くらいに参加していただいていますが、教育プログラムや量子コンピュータで遊んでみるプログラムなどを提供して、どう使えるかを一緒に考え、次のステップとしてどういったユースケースがあるかを弊社のソフトを使ってテストをしていただいています。そして、将来的に使えそうだと考えてくださった企業とはジョイントリサーチをしています。
私たちは、QURI、QURI Partsといったソフトウェアをツールとして提供しております。現在多くの企業とコラボレーションをしていて、投資家としては、JIC VGIをはじめとするVCのほか、富士通、日本ゼオン、三菱電機といった事業会社にも出資をいただいており、そういった企業の皆様とは共同研究などの取り組みも実施しています。昨年は米国のIBMから出資をいただき、密に連携しております。足の長い開発となるため、その他にもアカデミックやガバメント、特に内閣府や文科省と連携させていただき、サポートをいただきながら取り組みを進めています。
量子コンピュータは大きな話題にはなっていますが、実はキラーアプリケーションがまだ見つかっていないという現実があります。量子コンピュータは面白い、わくわくするといったモチベーションから関わっていただくケースが多かったのですが、やはり企業としてはアプリケーションがないと量子コンピュータの活用は、予算を通しにくいという話もあります。弊社としてもその課題は感じていたので、SDQs(Sustainable Development Goals to which Quantum Technology can Contribute)の取り組みも始めました。SDGsというサステナビリティの文脈で量子コンピュータがどのように貢献できるのかを考える取り組みです。これは、QPARCのスピンアウトとして行っていますので、面白い取り組みになっていると思います。併せてご検討いただけるとありがたいです。

本件に関するお問い合わせ先
JICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社
E-mail:info@j-vgi.co.jp