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2026

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「R&Dから量産化へ」 Gaianixxが挑む、半導体材料イノベーションの社会実装
半導体産業では今、性能向上とコスト低減という、一見すると相反する課題が同時に求められています。AI、データセンター、通信、衛星、モビリティ、エネルギー、あらゆる産業の高度化を支える半導体には、より高性能な材料、より安定した製造プロセス、そして量産に耐えうるコスト構造が不可欠です。 その課題に、材料の“土台”から挑んでいるのが、東京大学発のスタートアップ“Gaianixx(ガイアニクス)”です。同社は異なる材料同士の格子のずれを吸収し、高品質な単結晶膜の形成を可能にする「多能性中間膜」技術に取り組んでいます。今回は、中尾CEOに創業の背景やディープテックスタートアップが研究開発から量産化を進める上での壁など、Gaianixxの取組について伺いました。
中尾 健人
株式会社Gaianixx 代表取締役社長(CEO)
総合商社で自動車や航空宇宙、半導体等の分野の業務に従事。その後、外資系総合電機メーカーで日系顧客向けの半導体ビジネスをグローバルで展開し、日本・米国・欧州・中国・東南アジアを統括してビジネス拡大に取り組む。 海外営業拠点統括を経て、2019年に同社日本法人の代表取締役に就任。 2021年にGaianixxを設立。成蹊大学経済学部卒業。
林 隼
JICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社 ベンチャーキャピタリスト
総合商社にて素材・ライフサイエンス・エネルギー分野でトレーディング、投資、事業開発業務に携わる。 M&A実行や経営陣としてPMI、スタートアップ投資とバリューアップ、海外での新規事業立ち上げを担当し、2021年にVGIに参画。ライフサイエンスや環境・エネルギー等の分野に貢献するスタートアップへの投資活動に従事。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科化学生命工学専攻修了。
Gaianixx創業の背景と投資家が見た競争力

林:

最初に投資したのは2023年のシリーズBでのラウンドで、創業から2年程のアーリー段階での投資だったかと思います。まずは会社概要や創業の背景について教えていただけますか。

中尾:

我々は東京大学工学部発のスタートアップです。もともとは、現在CSOを務めている木島が、東京大学工学部・田畑研究室で取り組んでいた技術がベースになっています。ある程度成果が見えてきたタイミングで、東京大学として特許を出願しようという話になり、TLOに持ち込まれました。

その後、TLOから東京大学エッジキャピタルパートナーズ、いわゆるUTECさんに話が持ち込まれました。「この技術を事業化や社会貢献に活用できないか」というところが、最初のきっかけです。

UTECさんの中で半導体分野に詳しいパートナーの方が、この技術は面白いと考え、いろいろな企業にヒアリングをしていく中で、「本当に量産化まで持っていけるなら面白い」という反応があり、スタートアップとして立ち上げてみようという流れになりました。

林:

中尾さんご自身は、もともと外資系企業で日本法人の代表を務めていらっしゃいましたよね。そこからスタートアップに移るというのは、かなり大きな転換だったのではないでしょうか。

中尾:

そうですね。前職では、半導体に関連するプロダクトを扱っていました。光半導体や圧電など、用途は違っていても、実は同じような技術課題を抱えていました。ですから、この技術の説明を受けたときに、「これはまさにそこに寄与できる技術だ」と感じました。

当時、私は38歳で日本法人の代表になっていました。外資系とはいえ、日本では50代、60代の方が社長を務めることが多い中で、かなり異例の抜擢だったと思います。このまま日本法人の社長として長く続けることもできたと思います。でも、若い人たちが頑張れる文化を継承していくことも大事だと感じていました。そんなときにこの話をいただき、前職のフランス人の上司に相談したところ、引き止められるどころか「チャレンジしてこい!」と言ってくれました。それで創業に至りました。

林:

中尾さんのお話を聞いていて、私が最初に感じたのは、技術シーズだけで会社ができたというよりも、かなり早い段階から「誰がこの技術を社会に実装するのか」という問いがあったということです。ディープテックの場合、技術が強いことはもちろん重要ですが、それを顧客の言葉に翻訳して、事業として前に進める経営者がいるかどうかは、投資判断でも非常に大きなポイントになります。

中尾:

そこはまさに意識していました。研究成果として面白いだけでは、社会には届きません。お客様にとって何が変わるのか、どの工程で使えるのか、どのタイミングで量産に入れるのか。そういう議論に落としていかないと、会社としては成り立たないと思っていました。

「まずデスクがない」、創業初期のリアル

林:

何百人規模の組織を率いる日本法人社長から、創業前後のスタートアップに移る。部下もほとんどいない状態になるわけで、相当なギャップがあったのではないですか。

中尾:

ありましたね。まず、デスクがなかった。

林:

デスクがない。

中尾:

東京大学内に、木島が所属していた研究室の別室のような場所があって、そこに木島がずっと使ってきた装置と、木島の机だけがありました。そこからのスタートでした。

その衝撃はありました。「会社を一から始めるって、こういうことなんだな」と。ただ、同時にワクワク感もありました。外資系の日本法人社長といっても、いろいろな仕組みは整備されていて、経理や資金繰りをゼロから考えることはありませんでした。そこは、やはり“雇われ社長”だったのです。

スタートアップでは、デスク一つから決める。これは大変でもありますが、意外とワクワクする部分でもありました。

林:

そこにワクワクできるところが、やはり起業家としての素養なのでしょうね。

中尾:

ただ、ワクワクだけで進められるわけではありません。人も足りない、お金も限られている、設備も十分ではない。その中で何を先に決めるのか、何を後回しにするのかを毎日判断していく必要があります。大企業にいたときは、意思決定の前提が整っていることが多かったのですが、スタートアップでは前提そのものを自分たちで作る必要がある。そこは大きな違いでした。

林:

そこは、これから投資を受けたいスタートアップにも伝わるポイントだと思います。投資家は、完璧な状態を求めているわけではありません。むしろ、制約がある中で何を優先し、どう意思決定するチームなのかを見ています。Gaianixxさんの場合、その判断の軸が早い段階から比較的はっきりしていた印象があります。

木島CSOの世界を、事業に翻訳する

林:

Gaianixxの技術的な源流を担うのが、CSOの木島さんですよね。木島さんは、非常に先端的なことを話される方ですが、初めてお話した際、ご説明いただいたことを理解するのにかなり時間を要したことを覚えています。

中尾:

木島は、メーカーで半導体研究職を経験し、圧電材料や中間膜技術に長く取り組んできました。その後、自身の技術のメカニズムを改めて紐解くため、東京大学田畑研究室に技術を持ち込み、解析を進めていました。最初は、私も何を言っているかさっぱり分からなかったです。人間的に変という意味ではなく、木島の見ている世界と、私がそれまで見ていた世界が異次元のように違ったのです。どうやって木島の頭の中の世界に入り込み、理解していくのか。そのための努力はすごくしました。

木島はよく、「分子の気持ちになって炉の中に入れ」と言います。チャンバーの中に分子の気持ちになって入ってみろと。そうすれば、自分がどう動きたいか分かると。
私は「いや、全く分からない」と思うわけですが。

林:

でも、あれだけ難しいことを簡単に話そうとしているところには、研究者としてのプロ意識を感じます。木島さんに最初から1対1で向き合って、事業化しようとした中尾さんもすごいと思います。

中尾:

技術を理解して、確実に勝算があるものなんて、誰にも分からないと思います。最後は動物的な勘に近い。ただ、この技術が本当に実現できたら、すごい世界が待っているということは分かっていました。

木島がやり切れるかどうかは、経営や資金面も含めて私にかかってくる。そういう意味では、私と木島も二人で一つ、という感覚になりました。

半導体の性能を左右する「結晶」をどう育てるか

林:

Gaianixxの技術についても、なるべく分かりやすく説明いただけますか。

中尾:

半導体というと、チップになった状態を皆さん目にされると思います。ただ、その中で実際にパフォーマンスを持つエンジンのようなものは、結晶でできています。電気を光に変える、電気を発電に使う、そういった機能を担う部分です。

結晶を天然任せで作っていたら、当然量産はできません。そのため人工的に結晶を作る必要があります。そして、最高のパフォーマンスを出すには、単結晶が重要になります。

単結晶をきれいに成長させるためには、土台になるウェハーや基板が必要です。もし基板自体が単結晶で、しかも同じ材料であれば、その上にきれいな単結晶を作ることができます。ただ、その基板自体を作ることが難しい。供給量も少ないですし、大口径化も難しいため、コストが非常に高くなります。

一方で、安価で大口径化も進んでいるシリコン基板の上に、欲しい材料の単結晶を成長させることができれば、非常に大きなインパクトがあります。これまで「パフォーマンスが上がればコストも上がる」という発想だったものを、「コストも下がるし、パフォーマンスも上がる」に変えられる可能性があるわけです。

林:

そこが、Gaianixxの技術の大きなポイントですよね。

中尾:

はい。ただ、材料が違うと格子構造が違うので、そのまま重ねるときれいに成長しません。そこで木島が作ったのが中間膜です。結晶は基本的には動かないものですが、中間膜を特定の環境下に置くと、その格子が動き出す。分子と分子の距離を伸ばしたり縮めたりできる。

上に乗せたい材料と、下の基板の合わなかった格子を、中間膜が吸収することで、上をきれいに成長させる。これが我々の技術です。

林:

技術の説明としては非常に高度ですが、顧客目線で見ると、要は「高い材料を使わなくても高性能を出せる可能性がある」「これまで組み合わせにくかった材料を組み合わせられる可能性がある」ということですよね。

中尾:

そうですね。お客様にとっては、学術的に何が新しいか以上に、自社のデバイス性能が上がるのか、コストが下がるのか、既存ラインで検証できるのかが重要です。ですので、我々も技術を説明するときには、できるだけ「工程」「コスト」「性能」「量産性」の言葉に置き換えるようにしています。

林:

たとえば、一番進んでいるピエゾの領域では、従来品と比べてどのような違いが出ていますか。

中尾:

PMUT(圧電MEMS超音波トランスデューサ)という、超音波を送信して受信するデバイスがあります。我々の技術で結晶性を上げると、この送信距離が伸び、受信感度も上がりました。これは実際に大学の先生にデバイス化していただいて確認したもので、性能が3倍になっています。

そうすると、これまで超音波で見えなかったものが見えるようになる、あるいはより高い解像度で見えるようになる。そこは非常に分かりやすい価値だと思います。

林:

コスト面でもインパクトがありますよね。

中尾:

そうですね。たとえば、ある高価な材料のウェハーは、4インチ、6インチでも数十万円から百万円近い場合があります。一方で、それを同じサイズで置き換えられれば、数千円の世界になることもある。ウェハーだけで見れば、それくらいコストが下がる可能性があります。

また、従来はバルクを作って、それをスライスして、さらに研磨して薄くするプロセスがあります。本当は薄くしたいのに、機械的な制約で厚く作ってから削る。その過程で98%削ってしまうこともある。レアな材料を使っているのに、98%削るのは非常に無駄です。

林:

レアな材料消費を大幅に削減することで、コストだけでなく、環境にもいいし、カントリーリスクの低減にもつながる。そこは大きいですよね。

導入の壁は、技術だけではない

林:

品質が上がり、コストも下がり、環境負荷も下がる。そう聞くと、「なぜすぐに広がらないのか」という疑問もあるかと思います。製品の導入に当たっての壁はありますか。

中尾:

一つは、既存のラインに中間膜という新たな材料を入れるということです。既存製品に対して導入する場合、部品構成や設計が変わることはあります。ただ、これから新たに作る製品に対しては、そこはあまりデメリットにならないと思います。

もう一つは、技術者あるあるですが、自分たちが信じて作ってきた技術を否定されるように感じることがあるかと思います。半導体のラインは莫大な投資をして引きます。そのラインを自分たちの技術で量産まで持っていったのに、新しい技術に取って代わられたら困る、という心理はあると思います。

ただ、我々の技術を入れるために、ラインを新たに引かなければならないわけではありませんし、既存ラインを流用できるということは、導入ハードルを下げる上で重要です。

林:

日本企業は一つ一つ確認して進めるので、PoCや初期検証は早い。一方で海外企業は、一度決めると量産に向けたスピードが速い。最近はそこで逆転現象が起きつつあるように見えます。

中尾:

そうですね。初期は東大の基礎特許があり、それに加えてGaianixxとして応用特許を出していきました。しっかり権利化するまでは、海外企業との取り組みは慎重に進めていました。それが2025年の頭にある程度固まった段階で、海外のお客さんと取り組み始めた瞬間、進捗具合がひっくり返りました。

林:

そのスピード差は、投資家から見ても重要です。技術の良し悪しだけでなく、誰と組むと実装が早く進むのか、どの顧客が本当に量産まで行く意思を持っているのかを見極める必要があります。

中尾:

おっしゃる通りです。共同開発では、技術的な相性だけでなく、相手の社内でどれだけ本気のテーマになっているかが重要です。担当者の熱量だけではなく、量産部門や経営側まで含めて、どこまで前に進める体制があるのか。そこを見ながら、我々もリソースを投じる順番を決めています。

投資家が評価した「重層的な知財戦略」

林:

私が最初に見たときに驚いたのは、特許の構想が非常に重層的だったことです。創業約2年で、ここまで特許構成を考えているスタートアップはなかなかないと思いました。

多能性®中間膜の物質特許に加えて、装置の特許、半導体としての使い方、複層的な特許がある。守ると同時に、将来的なライセンスや事業展開も考えた知財戦略になっていました。

中尾:

この領域の特許を書ける人は少ないです。今いるメンバーの一人は、もともと木島と同じメーカーでエンジニアをしていて、その後、特許の世界に行き、弁理士になった人です。まさに適任でした。

まず材料の特許を取る。それが起こす現象やメカニズムを押さえる。それを起こせる可能性がある装置も押さえる。そこを全部特許で守っています。

一方で、全部を特許にするわけではありません。物を渡して、開けて見れば分かるようなことは特許にします。一方で、工場に来て実際のレシピを見なければ分からないものはノウハウにしています。

林:

特許にするものとノウハウにするものの切り分けは、技術と経営の接合点ですよね。そこをどう判断しているのですか。

中尾:

技術部とマネジメントチーム、部長クラス以上のメンバーで会議体を持っています。弁理士、木島、製造開発のメンバーの意見を聞き、総合的に判断しています。

こうしたメンバーが揃う前は、とにかく特許を出していました。判断できないので、出せるものは出す。
ただ、今はランク付けをしています。S、A、B、Cで管理していて、Sは最重要でグローバルに押さえる。Aは重要だが地域を限定する、といった形です。

林:

正直、ここまで体制を整えているスタートアップは多くないと思います。技術が強いだけでなく、事業戦略と知財戦略が整合しているところが、Gaianixxの大きな魅力だと感じています。

中尾:

知財は、守るためだけのものではなく、事業を進めるための共通言語でもあると思っています。お客様と共同開発を進めるときにも、どこまでを当社のコアとして守るのか、どこから先を一緒に価値化するのかを整理しておかないと、後で必ず難しくなります。

林:

そこまで含めて、経営として知財を扱えていることが重要ですよね。ディープテックの企業では、特許件数の多さだけが注目されがちですが、本当に大事なのは、事業戦略と知財戦略が同じ方向を向いていることだと思います。

量産に向けた“嬉しい悲鳴”と顧客熱量

中尾:

今の課題は、非常に物理的な問題です。まず装置の価格が高く、納期がかかってしまう点。発注してから1年から1.5年かかります。ありがたいことに、いろいろな材料で試してほしいという依頼が列をなしており、お待ちいただいている状況です。ただ、機能膜を作る装置が限られています。一つの材料に対し、1週間程度連続して装置を稼働させますが、そこから次の材料に切り替えるには、真空を解放して、前の材料を清掃し、コンタミが出ないようにして、また真空状態に戻す必要があります。そうすると、清掃だけで2日程度、3〜4人がかりです。その後、真空に戻すのにさらに1日かかる。合計で3〜4日かかります。

林:

それは相当なリソースですね。

中尾:

そうなんです。エンジニアは20人くらいいるので、シフトを組めば何とかできます。ただ、装置をもう1台追加するのかという判断もありますし、追加するとしても入ってくるのは1年から1.5年後です。コストをかけずに結果を出したい一方で、株主の皆さんにも早く証明したい。まさにディープテックあるあるです。また、場所も課題です。クリーンルームをイチから作ると数十億円かかる。そうなるとアセットスーパーヘビーな会社になってしまいます。我々は、いわば居抜きのように既存施設を賃貸で活用する形も取っていますが、特殊な環境なので簡単ではありません。

林:

これは、ある意味で嬉しい悲鳴ですよね。いろいろな材料に使えるからこそ、どこに優先順位を置くかが難しい。初期投資の段階でも、いろいろな用途に広がる可能性があることは、投資したいと思った大きな理由の一つでした。現在の限られた装置や人員の中で、どのように優先順位を決めているのでしょうか。

中尾:

最終的には、すべて掛け算です。顧客の熱量、マーケットサイズ、我々の現在の開発状況、量産までに必要な労力、それらを掛け合わせて判断しています。

少し前まで、半導体ではパワー半導体が非常に注目されていましたが、EVの停滞などで市況が変わりました。我々もパワー半導体を含めていろいろなお客さんと共同開発をしてきましたが、その中で、量産に向けて本当に速いスピードで進もうとしている会社の熱量を見極めました。

その熱量が高い領域、それがコミュニケーション領域、つまり通信です。携帯電話、AI、データセンター、衛星通信といった領域では、圧電材料が非常にホットになっています。この材料については、我々の基礎研究開発はほぼ終わっているので、あとは量産にどう持っていくかが勝負です。

林:

私は、顧客との熱量を重視しているところがすごく良いと思っています。マーケットサイズが大きいから行く、技術優位性があるから行く、という説明はよく聞きます。でも、Gaianixxの場合は、顧客の声がよく聞こえている。顧客を掴んでいるということは、マーケットを掴んでいることでもあります。

中尾:

熱量が高いと、逆に追い込まれるくらい「早くやれ」と言われます。投資家さんが思っている以上に、お客さんとは頻繁にやり取りしています。今も、海外のお客さんのラインに、我々の技術メンバーが入って一緒にやる案件があります。本来なら、メーカーは自社のラインに外部の人を入れたくないはずです。それでも一緒にやろうとしてくれている。そのスピード感と本気度は、経営判断をする上ですごく重要なファクターです。

林:

メーカーにとってラインは心臓部ですからね。そこまで懐が開いているなら、それは非常に強いシグナルだと思います。

壁打ちから生まれる信頼関係

林:

私の投資先の中で一番電話が多いのは御社ですね。最近は少し減りましたけど。中尾さんから着信が入っていたら、すぐには取れなくても、大至急折り返します。

中尾:

本当に頼りにしています。私もスタートアップは初めてなので、資金調達も経験がありませんでした。他の会社はこういうときどうしているのか、ディープテックではどう判断するのか、そういうことを林さんに今でも相談しています。

林:

直近のラウンドがうまくいったのは、中尾さんと経営陣が素晴らしかったからです。もちろん技術も含めてですが、VCや事業会社の意見を聞きながらまとめるのは大変だったと思います。

中尾:

そこをリードしていただいたのは、今回のJICさんなので、本当に感謝しています。資金調達のアドバイスだけではなく、ディープテックで他社はどう判断しているのか、といった壁打ちをさせてもらえるのがありがたいです。

林:

私がGaianixxに初めて関心を持ったきっかけは、材料系・脱炭素領域への関心と、木島さんの論文だったのですが、この木島さんの技術が会社化されていると知り、話を聞きに行ったところ、出てきたのは木島さんではなく中尾さんでした。ディープテックなのに、ビジネスサイドの方が経営しているのが意外でした。しかも、知財戦略がすごくしっかりしている。話も合う。そこに良い意味で驚きました。

中尾:

こちらからすると、投資家の方にどこまで相談してよいのか、最初は分からない部分もありました。ただ、林さんには比較的早い段階から、事業の悩みを率直に話せました。資金調達の話だけではなく、顧客との進め方、設備投資のタイミング、他のディープテック企業ではどう考えているのかといった話をできるのはありがたいです。

林:

私としても、投資先から相談が多いことはポジティブに捉えています。もちろん最終的に意思決定するのは経営者ですが、判断材料を整理したり、他社事例を共有したり、論点を一緒に確認することはできます。特にディープテックは不確実性が大きいので、良いことだけでなく、難しい話も早めに共有いただける関係性が大事だと思っています。

R&Dから量産化へ、社会実装に向けた最後の壁

林:

ディープテック領域には特有の壁もある中で、Gaianixxさんとして今後乗り越えていくポイントがあれば教えてください。

中尾:

ディープテックの領域で突破しなければならない壁は、やはりR&Dから開発、つまりDへ進むところ、そしてそこから量産化へスケールアップしていくところだと思っています。多くの会社はDのところまでは進むことができます。ただ、そこから量産化へ進む壁が非常に厚い。その壁をどう越えるかが、社会実装に結びつくかどうかを左右すると考えています。

林:

R&Dから開発へ、開発から量産へと順番に進む、いわゆる上流から下流へのバトンリレーだけでは、量産化の壁を越えるための時間もリスクも大きくなりますよね。Gaianixxさんの場合は、その壁に対してかなり早い段階から、量産側の論点も同時に取り組まれている印象があります。

中尾:

まさにそこは意識しています。我々の取り組みをイメージで言うと、単純なバトンリレーではなく、川の両岸から同時に橋を架けていくようなものです。R&Dという岸と、量産という岸があって、研究開発が終わるのを待ってから量産側へ動き出すのではなく、最初から両岸での取組を並行して動かしていく。いわば、跳ね橋のように両岸から橋を伸ばして、最後に真ん中でつなげる感覚です。

林:

その表現は非常に分かりやすいですね。R&Dが完了してから量産の検討を始めるのではなく、R&D側と量産側の双方から乗り越えるべき壁を挟み撃ちにする。だからこそ、顧客のラインや量産部門との対話、材料調達、品質、設備、人材といった論点が、早い段階から同時に出てくるわけですね。

中尾:

そうです。量産化に必要な論点は、最後に突然出てくるものではありません。設備をどうするのか、どの材料をどの順番で試すのか、どの顧客の熱量が高いのか、どのタイミングで量産側の評価に入れるのか。そうしたことをR&Dと並行して考えています。研究開発と量産準備を分けて考えるのではなく、最初から同じ地図の上に置いて進めることが重要だと思っています。

林:

そこにGaianixxさんの機動力がありますよね。大企業では、研究開発部門から量産部門へ、さらに顧客側へと、どうしても段階的に進みがちです。一方でスタートアップは、経営、技術、顧客開発、知財、資金調達を近い距離で同時に動かせる。その双方向からの推進力こそ、大手には真似しにくいスタートアップとしての機動力であり、Gaianixxさんの“色”だと感じています。

中尾:

ありがとうございます。量産化はもちろん簡単ではありません。ただ、両岸から橋を架けるように、R&D側と量産側を同時に動かし続けることで、分厚い量産化の壁を少しずつ越えられると考えています。顧客の熱量、事業会社さんとの連携、材料調達、知財、人材、設備投資を一つずつつなげていく。その積み重ねが、社会実装という成功に結びつく原動力になると思っています。

林:

私としても、Gaianixxさんが量産化、そして社会実装に向かうところまで、ぜひ伴走したいと思っています。投資家としては、どこで上場するのか、どこで次の資金調達をするのかという論点もありますが、最終的には事業が社会に実装されることが重要だと考えています。R&Dと量産の両岸から橋を架けていく挑戦を、しっかり見届ける投資家でありたいと思っています。

インタビューを終えて:技術だけでは、世界は変わらない

Gaianixxは、単に新しい半導体材料技術を持つ会社ではない。東大発の研究成果を、知財で守り、顧客と磨き、量産へつなげようとしている会社である。中尾CEOは、ディープテックスタートアップが突破すべき壁について、「R&Dから開発(D)へ、そしてそこから量産化へ進む壁は厚い」と語る。

多くの研究開発型スタートアップは、実証や開発段階までは到達できる。しかし、そこから量産、すなわち社会実装に進むには、まったく別の難しさがある。装置、場所、人材、材料、顧客、知財、資金。どれか一つが欠けても、量産化には届かない。Gaianixxが挑んでいるのは、技術を、事業にし、顧客に届け、量産し、社会に実装することである。“技術があるだけでは、世界は変わらない。”

だが、技術を信じる研究者がいて、それを事業に翻訳する経営者がいて、その挑戦を信じて伴走する投資家がいるとき、研究は社会実装へと向かい始める。Gaianixxが挑んでいるのは、まさにそのプロセスである。半導体材料の未来を変えるかもしれない“中間膜”は、いま研究室から量産の現場へ向かっている。

本件に関するお問い合わせ先

JICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社

E-mail:info@j-vgi.co.jp

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